2.1.2 クレームに用いられる動詞などの文言の解釈

@演算装置と周辺装置の区分け
 ソフトウエア関連発明を装置発明として捉える時、この種の装置は、一般的 に、各種の状態を検出しデータを入力する入力装置、入力されたデータを所定の アルゴリズムに基づいて処理する演算装置、得られた結果を出力する出力装置で 構成されていると考えられる。ソフトウエア関連発明では、この演算装置におけ る演算が所定のプログラムに従って実行されることに大きな特徴がある。
 この装置構成において、入力装置から演算装置に渡されるデータがどこまで 加工されたデータであるかは、入力装置の機能や演算装置の能力によって変化す る。CPUの演算速度が高速になるに従って、演算装置でより多くのデータを加 工する傾向にあり、入力装置から演算装置へ渡されるデータはより原始的なデー タとなる傾向がある。
 一方、これとは逆に、入力装置にもCPUを搭載して演算を実行させ、デー タの高度な加工を入力装置で行って、高度に加工された演算装置に渡す場合も多 くなりつつある。
 このような状況下において、入力装置と演算装置との境界線を明確に引くこ とが困難になりつつある。イ号製品の構成要件を特定する時に、イ号製品の入力 装置のプリント基板に実装されている部分のみが入力装置であり、イ号製品の演 算装置のプリント基板に実装されている部分のみが演算装置であると、単純に区 分して、それぞれを、クレームの入力装置と演算装置と比較することは、問題が あるように思われる。(注2)
 例えば、工作機械のテーブルの速度制御装置に関して、クレームが、図1(a)に示すように、「テーブルの移動速度を検出する速度検出装置」、「その速度 検出装置から得られた速度に基づいて、〜なる演算をした後、テーブルを駆動す るモータの駆動電流の指令値を求め、その指令値をモータ駆動装置に出力する演 算装置」と記述され、実施例には速度検出装置としてモータの回転速度をアナロ グ電圧値で出力する速度センサ(タコジェネレータ)のみが記述されているもの とする。
 一方、、イ号製品が、図2に示すように、テーブルの現在の絶対位置を検出する位置センサを有し、その 位置センサの出力する絶対位置を演算装置のCPUが入力して、時々刻々変化す る絶対位置から微分又は差分演算により速度を求め、さらに、そのCPUがクレ ームの演算装置と同一の処理を行う装置であるとする。
 この時、図2のイ号製品は、速度検出装置を有するか否かが問題となる。もしも、イ号製品 が速度検出装置を有するとするならば、その速度検出装置は、位置センサとそれ により検出された絶対位置を微分又は差分により速度を演算で求めるCPUの実 行部分とでクレームの速度検出装置が構成されていると解釈されなければならな い。
 同様に、図3に示すように、加速度センサを有し、その加速度センサの出力を演算装置のC PUが入力して、積分又は加算演算により速度を求めて、そのCPUがクレーム の演算装置の処理をも実行するというイ号製品も考えられる。
 この2つのイ号製品の様に、直接検出する物理量は速度ではなく他の物理量 から演算により速度を求める場合まで、クレームの「速度を検出する」に当たる か否かが問題となる。
 さらに、図1(b)に示すように、クレームが「テーブルの速度を検出する速度センサ」となって いる場合には問題である。図2又は図3のイ号製品は、単品としての速度センサを有していないことが明白である。こ の時、イ号製品の演算装置のCPUによる速度演算のステップまでをクレームの 「速度センサ」と見なし得るか否かが問題である。
 これに対して、図4に示すように、イ号製品が位置センサと検出された位置を微分して速度を求め るCPUとで速度検出装置を構成し、演算された速度を演算装置に出力している 場合には、発明の詳細な説明にそのような記載がなくとも、イ号製品の位置セン サと速度演算用のCPUは、クレームの速度検出装置に当たると考えられる。し かし、クレームが、図1(b)に示すように、「速度センサ」で記述されている場合にも、イ号製品の演算に より速度を求める速度検出装置が「速度センサ」に当たるか否かは、一般的に用 いられている「速度センサ」の概念にてらせば、疑問が生じる可能性もある。
 このように、クレームに「速度センサ」と記述した場合において、「速度セ ンサ」を図4のようなイ号製品まで含める場合には、発明の詳細な説明において、「センサ 」とは「速度を直接的に検出するものから、検出された物理量を演算して速度を 求め、その速度値を出力する装置まで含む」等の定義を記載することが望ましい 。(注3)

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