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特許の発明者と認められない

~着想の具体化に創作的に関与しない場合~

2022.12.1 弁理士 野口 富弘

1.事案の概要
 原告Xは、名称を「癌治療剤」とする特許権(特許第5885764号)に係る発明の発明者の一人であるとして、当該特許権を共有する被告らに対して、発明者であることの確認を求めました。東京地裁は、原告Xは発明者であると認められないとして確認請求を却下しました。本件は、原判決を不服として原告Xが控訴した事案です(令和2年(ネ)第10052号)。

2.本件特許発明
 「PD-1の免疫抑制シグナルを阻害する抗PD-L1抗体を有効成分として含む癌治療剤。」(本件特許の特許請求の範囲の請求項1)

3.主な争点
 控訴人(原告X)の共同発明者性。

4.知財高裁の判断
 知財高裁は、特許発明の「発明者」といえるためには、特許発明の技術的思想(技術的課題及びその解決手段)を着想し、又は、その着想を具体化することに創作的に関与したことを要すると判断した上で、
①本件発明の技術的思想は、PD-1による免疫抑制シグナルを阻害して、免疫賦活させる組成物を提供するという課題を解決するための手段として、抗PD-L1抗体がPD-1分子とPD-L1分子の相互作用を阻害することによりがん免疫の賦活をもたらすことを見出した点(着想)であり、控訴人は特許発明の技術的思想の着想に関与していない、
②控訴人が2C細胞とP815細胞を用いた実験を行うことを提案したことは、発明者である教授(原告Xの指導教官)の単なる補助者にとどまるものとはいえず、2C細胞とP815細胞の組合せ実験の出発点となったものの、上記着想を具体化するためには、PD-L1を発現する細胞を予め作製することが必要となり、そのための一連の実験を想起した上で、その具体的な設計・構築をする必要があるが、控訴人は、2C細胞とP815細胞を使用してどのような実験を実施するかのアイディアや、2C細胞とP815細胞の組合せ実験の後の展望を有していないから、上記組合せ実験の策定又は構築について創作的に関与していない、と判断して原判決を支持しました。

5.着想の具体化における創作的な関与
(1)従前より、発明者と認められるためには、着想を具体化することに現実に加担したことが必要であり、実験を行い、データを収集・分析を行ったとしても、その役割が発明者の補助をしたにすぎない場合には、発明者とは認められません。本件では、さらに、着想の具体化に至る過程の個々の実験の遂行に現実に関与した者であっても、その関与が、特許発明の技術的思想との関係において、創作的な関与に当たるとものと認められないときは、発明者に該当しないと判断されています。
(2)本件発明のような基礎実験医学の分野では、着想した技術的思想を具体化するためには、実証すべき具体的な仮説を着想し、その実証のために必要となる実験系を構築した上で、一連の実験を組み立てて仮説を証明することが重要です。

(注)P815細胞:癌細胞として使用できる細胞、2C細胞:癌を攻撃するT細胞として使用できる細胞、PD-L1:癌細胞の表面にある分子、PD-1:T細胞に発現する分子

◆発明に関するご相談は河野特許事務所までお気軽にお問い合わせください。

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