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物の発明の請求項にその物の製造方法が記載

〜発明は明確か?〜


2025.5.1 弁理士 野口 富弘

1.事案の概要
 名称を「電鋳管」とする被告の特許発明(特許第3889689号)について無効審判が請求され、「審判請求は成り立たない」との特許庁の審決に対して、原告が本件審決の取り消しを求める訴訟を提起した事案です(令和3年(行ケ)第10140号)。

2.本件特許発明
 本件特許発明は、「外周面に金属の導電層を設けた細線材の周りに電鋳により電着物または囲繞物を形成し、前記細線材の一方または両方を引っ張って断面積を小さくするよう変形させ、前記変形させた細線材と前記導電層の間に隙間を形成して前記変形させた細線材を引き抜いて、前記電着物または前記囲繞物の内側に前記導電層を残したまま細線材を除去して製造される電鋳管」です。(一部割愛しています)

3.審決の内容
 特許庁は、電鋳により製造された微細な管の構造又は特性として、細線材が適切に除去されており、コンタクトプローブ用の管等として使用可能な程度の内面精度を有しているとの構造又は特性を表していると解釈できるとした上で、当該電鋳管をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でない事情(以下、両事情を合わせて「不可能・非実際的事情」ともいます)が存在したともいえるから、物の製造方法を特定する記載により発明の内容は明確であると判断し、審判請求は成り立たないとの審決をしました。

4.知財高裁の判断
 被告は、細線材を除去するのに十分な隙間が形成でき、支障なく除去できるので、良好な内面精度を有するという構造又は特性を表していることが特許請求の範囲及び本件明細書の記載から一義的に明らかであると主張しました。
 しかし、知財高裁は、細線材を除去するのに十分な隙間が形成できると細線材を支障なく除去できる可能性が高いということが理解できるにすぎず、良好な内面精度の電鋳管という構造又は特性を表していることまでは理解できないと判断しました。
 そして、知財高裁は、本件明細書には、電鋳により製造された電鋳管の構造又は特性、具体的には被告が主張する電鋳管の内面精度について、何らの記載も示唆もないから、電鋳管の構造又は特性が一義的に明らかであるとはいえないとした上で、本件発明が明確であるといえるためには、電鋳管をその構造又は特性により直接特定することについて不可能・非実際的事情が存在するときに限られるとして、本件発明は不明確であるとして、審決を取り消しました。

5.プロダクト・バイ・プロセス・クレームの明確性要件
 化学物質などの物質は、その構造などで表現できない場合があるため、製造方法によってその物質を特定する必要があり、物の発明をその物の製造方法で特定するプロダクト・バイ・プロセス・クレームが認められています。プロダクト・バイ・プロセス・クレームが明確であるといえるのは、不可能・非実際的事情が存在するときに限られます(最高裁判所判決)。しかし、出願時において当該製造方法により製造される物がどのような構造又は特性を表しているのかが特許請求の範囲、明細書、図面の記載や技術常識により一義的に明らかな場合には発明の内容を明確に理解でき、第三者の利益が不当に害されることはないから、不可能・非実際的事情がないとしても、明確性要件違反には当たらないといえます。

◆ 発明に関するご相談は河野特許事務所までお気軽にお問い合わせください。

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