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2025.6.1 弁理士 水沼 明子
特許法では、医師の処方せんにより調剤する行為および調剤する医薬には特許権の効力は及ばないと定めています。しかし、知財高裁大合議判決で、美容医療に用いる組成物はこの規定の対象外であると判断され、権利行使が認められました。
1.事件の概要(知財高裁令和5年(ネ)第10040号 損害賠償請求控訴事件)
控訴人(原審原告):特許第5186050号の特許権者。
被控訴人(原審被告):、豊胸手術等の美容医療サービスを提供していた医師。
本件発明:本事件は、上記特許権のうち、請求項4に、請求項1を組み込んだ発明に関する特許権侵害訴訟です。対象の請求項を一文に纏めると以下の通りです。以下、本件発明と呼びます。
「自己由来の血漿、塩基性線維芽細胞増殖因子(b−FGF)及び脂肪乳剤を含有してなることを特徴とする、豊胸のために使用する、皮下組織増加促進用組成物。」
原審の判断:被告は、脂肪乳剤を含まない組成物と、b−FGFを含まない組成物とをそれぞれ患者に注入しているため、本件発明を実施していないと判断されました。
被控訴人の行為:控訴審で実施された本人尋問において、被控訴人は自ら施術した豊胸手術の手順について具体的、合理的に説明できず、客観的証拠も提出しませんでした。
そのため被控訴人は、患者本人由来の血漿にb−FGF及び脂肪乳剤等を混ぜて本件発明の組成物を作製し、患者の乳房に注入する豊胸手術を実施したと認定されました。
2.主な争点
特許法第69条第3項(特許権の効力が及ばない範囲)は、下記の様に定めています。
「二以上の医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物をいう。以下この項において同じ。)を混合することにより製造されるべき医薬の発明又は二以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明に係る特許権の効力は、医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為及び医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する医薬には、及ばない。」
医師である被控訴人が、本件発明の組成物を自分のクリニックで作製して豊胸手術に使用することに、控訴人の特許権の効力が及ぶか否かが争点となりました。
3.裁判所の判断
裁判所は、広辞苑等の辞書を参照して、「病気」は「生物の全身または一部分に生理状態の異常を来し、正常の機能が営めず、また諸種の苦痛を訴える現象」であるとしたうえで、主として審美を目的とする豊胸手術を要する状態は、「病気」とはいえないと判断しました。
したがって、本件発明の組成物は「人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物」と認めることはできず、特許法第69条第3項の適用範囲に該当しないとして、控訴人の特許権の効力が及ぶと判断しました。
なお、「処方せん」の有無については検討するまでもないと裁判所は判断しました。
** 知財高裁は、本件に関して第三者意見募集を行ないました。これは、訴訟当事者以外の第三者にも事実上の大きな影響を及ぼす事件に関して、裁判所が広い視野に立った判断を行なうための制度です。 判決文には、どのような意見書が提出されたのかは明示されていません。しかし、判決文の末尾に、「医療と特許との関係についての実情を踏まえた貴重な意見を含み、裁判所の審理及び判断に有益なものであった」と記載されています。**
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