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商標で技術的特徴を永久に保護できる?

〜 欧州における悪意ある商標出願の判断 〜


2025.8.1 弁理士 新井 景親

 商標は、文字または図形の商標が一般的ですが、立体的形状、色彩または音についても、商標として登録することができます。一方で、例えば立体的形状の場合、パラボラアンテナの形状のように、製品の機能を実現するために不可欠な形状について、商標権を認めてしまうと、更新を繰り返せば、実質的に商品の技術を実現するための機能を、商標権によって永久に独占することができてしまいます。2025年6月19日に、欧州において、EU司法裁判所(以下、CJEU)が、X社所有の商標権について、存続期間の満了した特許発明の技術の独占を目的としている場合、当該商標の商標出願は、出願人の悪意による出願に該当しうるとの判断を示しました。なお日本とは異なり、欧州のEU商標に関する理事会規則(以下、商標法)には、悪意でした商標出願に係る商標権は無効にされるとの規定があります。以下、この事件について説明します。

事件の説明
 X社は、医療用セラミック部品について欧州特許権(以下、特許権)を有していました。特許権の存続期間満了後、直ちにX社は医療用セラミック部品についてピンク色の色彩商標の欧州商標権(登録番号010214195、以下商標権)を取得しました。なおX社の特許権に係る医療用セラミック部品は、酸化クロムを適量含むことを技術的な特徴としており、この酸化クロムの影響で結果的にセラミックがピンク色になるものでした。
 X社は、ピンク色の医療用セラミック部品を欧州にて販売していたY社を商標権侵害で訴えました。Y社は、X社は存続期間の満了した特許権に代えて、商標権で技術の独占を延命しようとしており、X社の商標出願には悪意があるとして商標権の無効を求める訴えを起こしました。商標権の無効はフランスの最高裁判所に相当する破棄院で争われていたのですが、商標法の法的な問題が争点となることから、同院は審理を中止し、本件についてCJEUに質問しました。
 CJEUは、商標登録が特許権の失効後に行われた場合、特許権によって保護されていた技術的特徴を囲い込む目的で商標出願したのであれば、当該行為は悪意の存在を立証する一要素となり得るとの回答をしました。
 なおX社は、商標出願後に、ピンク色を引き起こす酸化クロムが実際には技術的効果を生み出していないことが発見されており、悪意には該当しないと主張していました。これについて、CJEUは、出願人の悪意は、問題の商標出願後に生じた状況に基づいて評価されてはならないと解釈されるべきであると回答しました。
 CJEUが上記回答をしたことによって、X社の色彩商標に係る商標権は無効となる可能性が高くなったと考えます。

日本の商標法
 日本では、商品等が当然に備える特徴のうち、政令で定めるもの(立体的形状、色彩又は音)のみからなる商標は、商標登録を受けることができません(商標法4条1項18号)。日本で同様な商標出願された場合、この規定によって拒絶または無効にされる可能性があります。

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