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黎明期に出願された特許に注意  

〜 他社権利の動向監視 〜


2026.3.5 弁理士 八木 まゆ

 スマートフォンゲームの分野では、その黎明期に出願されたために、多数のメーカが実施を望むような基本的と思われる内容について権利化されていることがあります。今回、そのような発明について出された判決を紹介します。

1.事件の概要
 東京地裁令和6年(ワ)第70223号では、原告が保有する特許第6143141号及び特許第特許5622184号に基づき、スマートフォンのゲームアプリ(以下、イ号アプリ)に対し、権利を侵害しているとして損害賠償を請求しました。対象の2件のうち、特許第6143141号(以下、本件特許)は、請求項1にて、ゲームアプリ上で、購入手続きを行なうことでユーザーに付与される第1の仮想アイテムと、ゲームの実行(例えばクリア報酬)によりユーザーに付与される第2の仮想アイテムとを、同種のアイテム(ゲーム内コイン)として消費する場合に、第1の仮想アイテムを優先させることを規定しています。

2.イ号製品
 イ号アプリは、有料か無料かを区別可能なアイテム(以下、ルビー)を消費してゲームを続行するなどの場面で、有料のアイテム(以下、有料ルビー)を優先して消費します。ただし、イ号アプリでは、有料ルビーの購入手続きの際に、無料のアイテム(以下、無料ルビー)がボーナスとして付与され、ボーナスの無料ルビーの数量は、ゲーム実行によって付与される報酬等の無料ルビーと合算されます。

3.裁判所の判断
 東京地裁は、イ号アプリにてボーナスとして付与される無料ルビーは、本件特許の「購入手続きを行なうことでユーザーに付与される第1の仮想アイテム」に該当し、イ号アプリにおいてゲーム実行によって付与される無料ルビーのみが本件特許の「ゲームの実行によって付与される第2の仮想アイテム」に該当すると認定しました。
 これにより、イ号アプリでは、ボーナスの無料ルビーと、ゲーム実行で付与される無料ルビーとの総量の和が無料ルビーの数量として内訳なしに記憶されており、それぞれを記憶していることは立証されないから、イ号アプリは、「第2の仮想アイテムの数量」を記憶する部分を実施しておらず、したがって、イ号アプリは、本件特許を侵害していないと判断されました。

4.考察
 イ号アプリにおける「有料ルビー」と「無料ルビー」を、そのまま「第1の仮想アイテム」と「第2の仮想アイテム」に当てはめると、イ号アプリは本件特許の権利範囲に入りそうでしたが、定義から、購入時のボーナスの無料ルビーは「第1の仮想アイテム」であると判断するのは妥当と言えます。本件特許は、解釈次第では、非常に広い権利となって多数のメーカが実施中又は実施を望む内容を権利範囲内とする可能性があるので、慎重に解釈されることが望ましく、今回は影響が少なく抑えられたと考えます。
 このようにスマートフォンゲームの分野では、本件特許のような黎明期である2010〜2015頃に出願されている件が、先行文献が非常に少ないために、通常行われそうな内容についても特許になっていることが他分野よりも多く見受けられます。また、このような出願ほど、分割出願の繰り返しにより、権利化されるか否かが未確定の出願が現時点でも残る戦略が取られており、監視が必要です。

◆特許について質問がある方は、お気軽に河野特許事務所までご連絡ください。

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